7セグメント「シアワセの末路」「イビツな計画」「Jealousy」

今回取り上げる7セグメントというバンド、多分知らない人が大半であろうけど自分にとって今このバンドがイチ推しでありここで取り上げない訳にはいかない、そんな思いもある。

7セグメント『RECEPTION』2022年

先月4月16日、バンド結成5年目にして初のフルアルバム『RECEPTION』をリリース、初ワンマンライブが行われた。何はともあれまず曲を聴いていただきたい。


シアワセの末路(2022 Re-Recording)

この曲を聴いて×なら以下の文章を読み進めることは無意味かも知れない。演奏あるいはボーカルの声質とかリスナーとの間に相性みたいなものもあるだろう。せめてブログ内に貼りつけた曲だけでも聴いていって欲しいところではあるが。

先月のワンマンライブ、下北沢の小さな箱ではあったがチケットソールドアウト、リリースイベントに相応しい熱気と盛り上がりでいいライブだった。一番強く感じたのは誰よりもメンバー達5人が凄く喜んでいたこと。振り返ってみるとファーストアルバムのリリースまでに何故5年もかかったのかはメンバー全員にとってサイドプロジェクト的要素が強かったからだろう。しかし気付いたら溜まってきたバンドのオリジナル曲は良い曲ばかりでこれは一度きっちり形にして勝負してみよう、と。ミュージシャンゆえの生理とか習性みたいなもので良い音楽を演奏することはミュージシャン冥利に尽きる、ということではないだろうか。

バンドの中で一番多く曲を書いている宮野弦士さん。現時点で彼をマークしているファンは自分も含めていつかは彼が日本の誰もが知っているようなJ-POPの名曲を手掛けるんじゃないか、そんな予感めいたものを抱いていると思う。彼が楽曲提供したアイドルの子達の曲を聴いているともう紙一重、あとは何かきっかけさえあればという所まで来ているように感じる。7セグメントでの彼は凄く自由にやりたいことがやれている様子。個人的にはJUDY AND MARYをプロデュースした佐久間正英さんのような時代と共に記憶される音を生み出して欲しいと思う。


7セグメント-イビツな計画〚Promo Edit〛

自分にとってアイドル界隈における推しであり7セグメントでは全曲歌詞を書いて歌っているのがSSWのSAWAさん。エレクトロポップブームの中、2008年にソニーから歌手としてデビュー、これまで数多くのアイドルの女の子達に楽曲提供している。そしてご自身もサブカル評論家の吉田豪さんから「若い子達と比べてもビジュアル的に勝負出来ている」と褒められているように現役のアイドルでもある。曲がアイドルファン向けとか洋楽ファン向けとか決める訳ではないけれど自分の印象としてこのバンドはSAWAさんにとって久々に一般のJ-POPファンに向けた活動、という気がする。

アルバム全曲の中で個人的に一番好きなのはやっぱりSAWAさん作詞作曲「Harmony」なのだ。メンバーそれぞれがこのバンドで音を出すこと、曲とリスナーの三者間での諧調が歌われるこの曲、「まだやれる」他の曲でも出てくる「私だってやれる」というフレーズがSAWAさんからリスナーに対するメッセージとも受け取れる。自分は先日のライブで初めてこの曲を聴き本当に来て良かったと思った。心からお礼を言いたい気持ちである。

さて、当ブログでお馴染みの詳細な歌詞分析をどれか一曲施すとすれば最も相応しいと思われる曲が「Jealousy」。

まずこの歌詞を傑作に押し上げた要因として曲の発表順があると思う。自分の計算ではアルバムの中で8番目に出来上がった曲で「イビツな計画」、「ブルーライトセンセーション」、「プラスティック・サーカス」らが直前にありそこでのメンバーの仕事がかなり良くてこの曲になって突然箸にも棒にも掛からないという訳にはいかない、そんな流れがあったんじゃないかと思う。では歌詞がどんな風に出来ているかというと一定の視点から語られるシチュエーション一つ一つの繋がりや解釈はリスナーの感性に委ねられ最終的に“ジェラシー”というワードに集約されるという構図。別にこの構図自体はオーソドックスな訳であるが、例えばサブスクで若いSSWの恋愛ソングを聴いていると時々聴いているこちら側が恥ずかしくなってくるような発想や表現の曲に出くわすことがある。こういうモノの作者は客観的な見地に立った神目線でのジャッジが必要になってくると思う。何を書くか、あるいは何を書かないでおくのか。そして言葉一つの選択ミスも許されない。微妙な言葉があると忽ちその言葉だけが浮き上がり全体を台無しにする。リスナーはわがままなのである。

その辺りのことが全てクリアされているこの曲についてファンが「SAWAさんの実体験が元になっている詞なのでは?」と妄想を繰り広げるとこれはもうSAWAさんの勝ち、してやったり、である。上記のような感想は曲の世界観にリスナーが没入している証拠であることに他ならない。作者としてそれは想定内、深読みされてしまうほどリアルで鋭い描写が並んでいるのだ。因みに“深読み想定内”歌詞の女王はaikoさん。この曲はaikoさんの領域に突入である。

こういう曲は秘かに戦略的でビジネスライクに徹するべき、というのが自分の考えだ。山下達郎さんの「あまく危険な香り」、オリジナルラブの「接吻」も元々はTVドラマとのタイアップという役割を担っていた曲だった。丸山圭子さんの「どうぞこのまま」のような昭和のフォーク~ニューミュージックを彷彿させる曲に歌詞を乗せることで2022年度版シティポップへブラッシュアップさせる、それに成功しているという意味で作品として商品として価値が高いというのが「Jealousy」に対する評価である。


Jealousy

 

 

ここからはSAWAさんのオタクとして本領発揮になるのだが「Jealousy」を聴いてSAWAさんのデビューアルバムに収録されている「MerryGoRound」という曲を思い浮かべた。

SAWA『WELCOME TO SA-WORLD』2010年(「MerryGoRound」収録)

但し「MerryGoRound」についてであるが歌詞が書かれた当初のジェンダーが微妙ではあるものの「Jealousy」との共通点を見い出した現在、女性目線であることに違和感はない。その前提で話しは進められる。

例えば同じくデビュー時期に発表された「Discovery」(福富幸宏さん作曲)などはとても華やかで彼女の陽キャラで前向きな雰囲気が前面に押し出されている曲。歌詞も日常からの宇宙飛行という今現在の彼女とイメージ的にも合うような“原型”であるのに対し「MerryGoRound」の方は歌声は確かに彼女なのだがどこか自分が知るSAWAさんじゃないような印象を受ける。何となく陰のある暗い感じがする曲で決定的に違うのは妙にリアルな緊張感が全体を覆っていてシリアスな雰囲気であること。

セーラー服姿の少女は自分の気持ちを表現するだけで精一杯だったのに対して12年の歳月を経て27~28歳になった「Jealousy」の女性は相手の気持ちを慮る表現が見られるようになっている。どうやら人一人を受け止めることの大変さを知ったようだ。しかし今でも彼女は a million times thinking of you なのであろう。

次に「MerryGoRound」の少女と再会するのはいつのことだろうか。