misia「everything」等のサウンドプロデュースで知られる冨田恵一氏の著書『ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法』(2014年発売)。
DONALD FAGENのソロアルバム『The Nightfly』一枚を徹底分析、解説した労作なのだがミュージシャンならではの視点と御自分の音楽理論、経験則からの考察がずば抜けた説得力を示していて素晴らしい。やはり音楽を創作する仕事で結果を出している事実がそう感じさせるのか。また、プロのレコーディング現場とかプロデューサーのタイプ別分類とか色々とても興味深い内容の本である。
本書の中でD・FAGENについて語った文章に冨田氏御本人の音楽哲学とマッチすると思われる一文がある。そこを抜粋すると
〈~高い整合性を持ったバック・トラックはヴォーカルや歌詞内容、楽曲といった“骨格”にリスナーの意識を向け、深く感情移入させるために必要である。ムードを的確に伝え、無意識下でリスナーを高揚させる媒介として機能するからだ。~〉
冨田氏が一番重きを置いているのは上記文中にある“高い整合性”ではないか。
良い悪い、正解かそうでないかは別として例えば極端な音圧でドカドカと何より一番目立ったスネア音とかストリングスが全面に配されたバラードで突然ディストーションの効いたギターソロが挿入されるとか冨田氏のプロデュース曲ではまず有り得ない。リスナーにすんなりと深く感情移入させるための整合性を求めた音作り。それが冨田ラボWorksではないだろうか。
KEDGE『COMPLETE SAMPLES』1988年
このアルバムは冨田氏のプロキャリアにおける最初期の頃だと思うが今でも十分聴き応えがある。
『プロ‐ファイル 11プロデューサーズ VOL1』1997年
自分が冨田氏を意識し始めたのはキリンジからだったと思う。この曲の歌詞は“超”がつく下ネタなのに全く下品に感じないのはこのサウンドであるがゆえ。
KIRINJI & Keiichi Tomita-乳房の勾配
misia「everything」2000年
冨田氏の音世界を世に知らしめたJ-POP史上屈指の名バラード。皆様にもお馴染みでしょう。この曲はその他大勢のJ-POPとは圧倒的に音圧ならぬ“艶圧”が違うように思える。ストリングスによって流麗な雰囲気を高め、曲の後半部分にコードチェンジがめまぐるしい間奏を配する。こういうタイプの曲を冨田氏の得意パターンとして仮に「everything」系と呼ぶことにしよう。
つじあやの「ゆびきり/星降る夜のクリスマス」2005年
「everything」系のフェイバリットは季節柄この曲で。