イーグルス「お前を夢みて」の意訳とその他諸々

ロック、ジャズ、R&Bのレジェンド級アーティストは結構、本当の意味でヤバい。

来日すれば出来る限り観ておかなければならないのである。その内の一組と思えるのがEAGLES

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すでにオリジナルメンバーであるGLENN FREYが他界してしまい黄金期のメンバーはDON HENLEY、JOE WALSH、TIMOTHY B SCHMITの3人になってしまっている。

 

EAGLESHOTEL CALIFORNIA』はロックアルバムの中でも誰もが知っている名盤中の名盤であり、

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EAGLESHOTEL CALIFORNIA』1976年

自分は中でも一番好きな曲がJOE WALSH作「Pretty Maids All in a Row」(邦題「お前を夢みて」)。歌詞の解釈が難解といわれるアルバム曲中でも難易度の高い方だと思われ、今回はその解釈に挑戦してみようという企画である。

EAGLESっぽくないとされるこの曲は地味ながら深い味わいを感じさせる。当然、歌詞の日本語訳は単語の直訳では意味を成さない。しかしながらこれが正解であるというつもりもなく、あくまで一個人の見解と捕らえていただきたい。物語としては一人称の語り手「僕」と旧友の女性「君」にまつわる話。学生時代に仲の良いクラスメイトだった男女が中年になって久しぶりに会った時の男性側の心情を綴った光景が語られている。

まずは前半部分の意訳から。

   Hi there, how are ya

   It's been a long time

   Seems like we've come a long way

   My but we learn so slow

   And heroes they come and they go

   And leave us behind

   As if we're supposed to know

   Why, why Why do we give up

   our hearts to the past

   And why must we grow up so fast

 

   やあ、元気だったかい?

   久しぶりだね

   僕達は人生の長い道のりを

   歩んできたようだ しかし 

   物事を学ぶのはゆっくりだった

   時代のヒーローらは僕達の目の前を

   現れては消えていった そして

   僕達を置き去りにしていったんだ

   まるで僕達がそうなることを知って

   いたはずだと言わんばかりにね

   なぜ僕達は過去の出来事に心を

   囚われてしまうのか そしてなぜ

   急いで成長しなければいけないのか

 

前半部分で難しいところは supposed to know=知っていたはず がどこに係るのか。これは文脈を考えると heroes they come and they go に係ることとして訳してみた。

 

後半部分の訳詞へいく前に曲のタイトルでもあるラストセンテンス Prtty Maids All in a Row 直訳すれば かわいいメイド達が一列に並んでいる という意味になる。これは“マザーグース”というイギリス発祥の童謡でイギリス、アメリカで広く親しまれ教養の基礎となっているその中の一つ「へそ曲がりメアリ」の一節から取られている。

マザーグースといえば「ロンドン橋落ちた」とかAGATHA CHRISTIEの『そして誰もいなくなった』のモチーフとなっている「10人のインディアン」などが思い浮かぶが

「へそ曲がりメアリ」はどんな曲かというと、

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LISA LOEBNursery Rhyme Parade!』2015年


Mary,Mary,Quite Contrary

   Mary, Mary, quite contrary

   How does your garden grow?

   With silver bells and cockleshlls,

   And pretty maids all in a row

 

   メアリはへそ曲がり

   あなたの庭の様子はどう?

   銀の鈴や貝殻や

   かわいいメイド達が並んでる

 

「へそ曲がりメアリ」とはスコットランド女王、MARY STUARTであるという説もある。最近『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』という映画にもなっている。

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『Mary Queen of Scots』2018年

 “Pretty Maids All in a Row”この意味をどう解釈するかでネット上では世界中で意見が散見している。中でも自分が気になったのは幼くして亡くなったJOEの娘、EMMAのことではないかという解釈。EMMAは交通事故で4才で亡くなったとされている。生前のEMMAが友達数人と並んでいる様子を詞にしたのではないか、と。YouTubeにある動画にもそんなようなものがあってホテルのメイド説とミックスしたような内容になっている。


Eagles - Pretty Maids All In A Row - with lyrics

これがもし真相だとしたら悲しくもあり感動的でもあるのだが自分としては少し違うのではないか、と。

HOTEL CALIFORNIA』はJOEが参加した初めてのアルバム。EAGLESは当時すでにビッグネームであり当然JOEがリーダーのバンドでもない。そんな状況でプライベートな一番重い側面をバンドに持ち込んだりするだろうか。そもそもJOEはEMMAが亡くなった年にソロアルバムの中でEMMAのことを歌っている。

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JOE WALSH『SO WHAT』1974年(「Song For Emma」収録)

何度も同じモチーフを使うことは無い訳では無いと思うけどどうなんだろうか。

それではやっと後半部分の日本語訳にいくことにする。

   And all you wishing well fools

   With your fortunes

   Someone should send you a rose

   With love from a friend

   It's nice to hear from you again

   And this storybook comes to

   a close

   Gone are the ribbons and bows

   Things to remember, places to go

   Pretty maids all in a row

 

   幸せを願う君の思いは運命に

   翻弄されてしまった

   誰かにバラでも贈られるべきさ

   友人から愛を込めてとね

   また連絡があって良かったよ

   そしてもう感傷に浸るのは

   終わりにしなきゃね

   愛しい思い出 懐かしい場所

   かわいい女の子達の面影

   すべては過ぎ去ったことなの

   だから

wishing well=コインを投げ込むと願い事が叶う井戸 fools with=翻弄される

そして一番意訳が難しいと感じたのが “ribbons and bows” bow=蝶結び→蝶結びのリボン これは storybook という単語から派生した言葉だと仮定すると手作り思い出アルバムみたいなイメージだろうか。

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things to remember と合わせて考えると“リボン掛けするような過去の光景”という意味で 愛しい思い出 としてみた。 the ribbons and bows things to remember, places to go pretty maids all in a row→これらは最終的にすべて gone に係るという解釈である。ここの最後の部分はネット上でも様々に見解が分かれていて面白いのだがいろんな意味にとれる所がこの歌詞の魅力ともいえるだろう。

こうして訳してみると pretty maids all in a row という一文は先にこのセンテンスがあって後から他の詞が出来たのか、最後の決めセリフを探していて後から持ってきたのか、いずれにしろ浮いているような気がしてならない。一体何がきっかけだったのだろうか。

自分的にはある映画からJOEがインスパイアされたのではないかというネット上の意見に着目した。その映画とはフランス人映画監督のROGER VADIMがアメリカで撮ったエロティックサスペンス『Pretty Maids all in a row』邦題名『課外教授』。

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『Pretty Maids all in a row』1971年

ROCK HUDSON、TELLY SAVALAS、ANGIE DICKINSONという豪華キャストのB級映画アメリカ大統領選挙に立候補すると言ってみたり派手な星条旗柄の衣装で現れたりと突飛な一面もあるJOEであれば案外真相はこんな所に転がっているのではないだろうか。

ROGER VADIMといえば作品もさることながら元妻がBRIGITTE BARDOT、JANE FONDA、CATHERINE DENEUVE(未婚ながら息子あり)とこれだけでスゴイ人確定という人物であり通算4度結婚しているJOEがシンパシーを覚えても不思議はないはず。


Pretty Maids All in a Row

映画もEAGLESの曲もマザーグースからきていて思春期の若い女の子達というイメージ。「お前を夢みて」を意訳する上で一番核となる直接の元ネタについての仮説である。

 

最後に1981年BBCが行ったJOEへのインタビュー記事のリンクを貼っておく。

 
Pretty Maids All In A Row by Eagles - Songfacts