MOONCHILD 「Party」「Cure」

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左から、ANDRIS MATTSON、AMBER NAVRAN、MAX BRYK

moonchildはどうしてもLIVEが観たかったバンドの一つ。過去2回の来日では平日の東京公演のみで行けてなかったが今年は関西圏からも日帰り出来る名古屋公演があり、3年越しの願いが叶った。

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ブルーノートは久しぶりだった。大阪にあった頃OSCAR PETERSONCHICK COREAGARY BURTON、日野皓正等々、よく行ってた時期があった。ブルーノート(ビルボードライブもそうだが)のいいところはアーティストに近い位置でLIVEが観れる点。6月のCORINNE BAILEY RAEは真正面から2メートルぐらいのところで御本人と目が合うのが分かるくらいの近さだった。moonchildの時もAMBERの正面4メートルくらいのところで両脇の2人も見渡せる絶好のポジションだった。

彼らのLIVEでまず思うのは(他のLIVEレビューでも必ず触れられている)ベースやギターといった弦楽器がないことだ。プロのバンド編成LIVEで弦楽器なしというのはちょっと記憶にない。しかも彼らの場合、キーボード2台とドラム、管楽器3人というこの組み合わせもきわめて個性的。後ほど述べるがこの演奏形態については自覚的であると思われる。

ソウルミュージックとしては音階が少しズレたような、ルーズで浮遊感漂う雰囲気がネオソウルの特徴とすればmoonchildはそれを踏襲しながら宅録っぽい内向きな感じよりむしろ開放感溢れる、スウィングジャズを奏でるような趣きが独特でワンアンドオンリーな存在といえるだろう。

ここからは彼らについて突っ込んだ妄想を語ることにする。

彼らはSpotifyの中で〔Moonchild...“Voyager”Inspirations〕というプレイリストを公開している。サードアルバム『VOYAGER』を制作中に影響を受けた曲ということでHIATUS KAIYOTEやERYKAH BADUSTEVIE WONDER等の名前が挙がっているがこれがスゴイ。リストに挙がっている曲を聴いていくと分かるのだがここには『VOYAGER』に限らず過去のアルバムの元ネタとなる曲の多くが正直に公開されているのだ。例えばKINGの「Supernatural」は彼らの音楽性の元になっている曲で先行してこの曲があったから彼らは“ジャズ”ではなく“ソウル”にカテゴライズされていると思われる。あるいはD'Angelo「Sugah Daddy」はLIVEでは定番の「Back To Me」、FLYING LOTUS「Massage Situation」のビートはもろ「Run Away」といった具合。先程から簡単に言ってしまっているがアーティストにとって元ネタとの関係はシビアな問題が発生してもおかしくないはずで盗作騒動や裁判沙汰は世界中で起きているし、彼らのリストの曲の実作者はほぼ全員現役で活躍するミュージシャン達。こんなあからさまな行為をどう思うだろうか。言葉は悪いが“パクってます”と公表しているのだ。

プレイリストの公開は実は大した理由など無いのかも知れない。しかし彼らはわざわざやらなくてもいい事をやっているのだ。そしてそれは自分達の活動の基本になるオリジナルアルバムについての事柄なのである。

なぜこんなことをしているのか。考えられる理由は二つ。

一つは音楽性について話す時、プレイリストのアーティストや曲について触れてもらえれば説明しやすいし分かりやすいと思っているのではないか。実際彼らのインタビュー記事を読むと必ずと言っていいほど影響を受けたアーティストに関する話が出てくる。そしてもう一つは自分達の“オリジナリティ”に対する自信だ。どんなアーティストとの関連を指摘されようとも自分達のサウンドは確立されているとの自負があるのではないか。彼らは“オリジナリティ”について凄く自覚的だと思う。最初の方で述べたLIVEの演奏形態について弦楽器はなく管楽器を3人でハモって客に生音を聴かせ、やってる音楽はネオソウル。こんなバンドは世界でも珍しいということを分かってやっているのだと思う。

そして音に対するこだわり。彼らがBeyonceの「Party」をカバーしたMVが公開されている。D'AngeloやERYKAH BADUの曲でもいいはずなのに「Party」を選んでいるのは原曲との対比を際立たせる意図があるのではないか。BeyonceのMVを是非とも観ていただきたい。まさにゴージャス&ダイナマイトの極致だ。しかし彼らの方はまるで映画監督の小津安二郎がハリウッド製の大作映画を観まくった後、日本家屋で暮らす小市民映画を撮り始めた感じ(余計分かり難い⁉)。


Party - Beyonce (Moonchild Cover)

キーボードの最初の一音でたちまち彼らの世界、すでに彼らの音楽になっている。このアレンジは自分達のオリジナリティに対する自信の表れだと勝手に解釈しているのだがどうだろうか。

今回は5月にブルーノート名古屋で行われたLIVEレビューを書くつもりでいたが一向に始められないままきてしまったのでバンド演奏動画を貼ってお茶を濁しておく。注目はボーカルAMBER NAVRANの様子について。歌っている時のパフォーマンスなのだがマイクを持っていない方の手を前へ上げたり下げたり、時に伸び上がるようにして歌ったり、口から大きくマイクを離したり。この様な仕草をどうやら御本人は何とも思っていないようだし多分まわりのメンバー、スタッフも何も言わないのだろう。moonchildを一つの音楽制作チームとして見た場合、間違いなくキーマンはAMBERであると思わせる初LIVE観賞だった。

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MOONCHILD『VOYAGER』2017年


Spectrasonics presents: MOONCHILD - "Cure"