“アニバーサリー”
Dizzy Mizz Lizzyのギター、ボーカリストであるTim Christensenによるソロアルバム『Honeyburst』発売20周年記念ツアー、場所は大阪、梅田クラブクアトロ。バンドとソロ、サウンド面で全く同じという人を時々見かけるがTimはハッキリ分けるタイプでこの『Honeyburst』というアルバムはハードロックファンだけが聴いているのが勿体無いくらい幅広い音楽ファンに知られてもいい名作だった。特にビートルズ好きの方にはオススメなのである。今回はその『Honeyburst』の完全再現ライブで個人的にはあまり経験しないようなこと(突然、前にいた人が気を失って倒れたり、ずっと大声でライブとは関係ない話しをしている人がいたり)が印象に残るライブだったが演奏は素晴らしかった。
ノルウェーのシンガーソングライターSondre Lerche、7年ぶりの来日公演は『TWO WAY MONOLOGUE』発売20周年記念ツアー、場所は大阪、三角公園近くのAnima。彼はPrefab Sproutの「Nightingales」をカバーしていて他にもPrefabっぽい曲とかこの『TWO WAY MONOLOGUE』も結構好きで今回は珍しい来日公演と思って行って観た。Animaというライブハウス、キャパ350人とあるが多分客入りは100人もいなかったんじゃないか。会場の半分も埋まっていない中、アコギ1本、一人髪を振り乱して一時間半全力で演奏する姿に感動すら覚えた。個人的にはライブ開始直前、Prefab Sproutの「Nightingales」が会場に流れ、曲がフェードアウトして『TWO WAY MONOLOGUE』の1曲目が始まる所が一番のハイライトだった。
Sondre Lerche-Days That Are Over
“異色のソウルバンド”
The Internet、Moonchildと並んで語られることが多かったHiatus Kaiyoteの来日公演、場所は大阪城音楽堂。ここは演奏舞台上にだけ屋根があって客席には屋根がない屋外ホールでこの日はずーっと雨。傘の持ち込み禁止で自分も予め雨カッパを用意して臨んだが11月の夜、雨に打たれっぱなしは結構きついものがあった。Hiatus Kaiyoteの最初の印象は演奏的にはコンテンポラリージャズみたいでメロディよりテクニック重視、ボーカルのNai Palmは見た目のセンスが好みではなく上記二つのバンドより引いて見ていた。Nai Palmはソロ作のMVでパンツ一丁(上着はあり)で池に入って炎の剣を振り回すという意味不明のMVがあってとにかく好きになれなかったのだが2021年の『Mood Valiant』、2024年の『Love Heat Cheat Code』と立て続けに良作をリリース、自分的にはメロディセンスが好みになってきた感じでもはやNaiのキャラなど吹っ飛んでしまい凄く楽しみにしていた来日公演だった。今回何故屋外だったのか。屋内だったらもっと演奏に集中出来たと思うと残念である。しかしNai Palmは素晴らしいシンガーでありバンドのギターリストとして重要な役割を担っていることも見て取れ、これは日常生活においても人は見た目で判断してはいけないと教訓を得た思いだった。
Hiatus Kaiyote='And We Go Gentle'(Official Video)
Brainstoryの来日公演、場所は大阪、CONPASS。まず目を引いたのは物販を担当する人がBrainstoryの帯同スタッフみたいでその人は日本語は喋れないけど理解は出来るみたいで「ありがとうございます」だけ言ってテキパキ客を捌いていた。Tシャツのサイズとか色々言う客が居ても親切に無言で対応していて面白かった。ライブの方はスリーピースのインディーロックバンドがソウルっぽい曲を演奏する感じだがブルーアイドソウルとかアシッドジャズとは明らかに違う雰囲気だ。説明が難しいがそれが彼らの個性ともいえる。アンコールの1曲目にWilliam DeVaughnの「Be Thankful For What You Got」を演っていて溜飲が下がる思いがした。この曲ってソウルだけどロック。彼らのイメージにぴったりの曲だった。YouTubeにあまりいい彼らの演奏動画が無くて迷ったが「NyNy」は一番ソウルっぽい曲。
“曲調によって印象が割れる”
Paul Wellerの来日公演、場所は大阪、なんばHATCH。Paulのライブは2回目で前回は自分が社会人成りたての頃だったか、ゴツゴツの硬質なロックライブでStyle Councilの曲は記憶にない程グランジ、オルタナ色の濃いライブだったと記憶している。今回も基本硬質なロックンロールなのだがStyle Councilの曲になると途端にソフトに変化する印象が二分する感じがあった。Paulがそれだけ色んな音楽をやってきたという証でもあるだろう。個人的に印象深いのはアンコールのラスト、ライブの最後にPaulのピアノ弾き語りでStyle Councilの「It's A Very Deep Sea」を演ったこと。『CONFESSIONS OF A POP GROUP』はStyle Councilとしての最後のアルバムで大好きな作品だった。そこの1曲目を最後に持ってくるとは。感動の余韻で終わった。
It's Very Deep Sea -by- The Style Council(2019 at Black Barn Studios)
Deafheavenはアメリカのブラックメタル/ポストメタル(WiKiによる)バンド。来日公演の場所は大阪、梅田TRAD。彼らは激情型のハードコアなタイプなのだが最新作『Infinite Granite』というアルバムはシューゲイズアルバムとして素晴らしい内容で愛聴盤だった。一体どんなライブになるのか興味津々で臨んだのだが、まず客の一部に暴れに来ている面々がいて演奏の最中、会場中央で暴れ回るので端に避難しなければならなかった。ボーカルのGeorge Clarkeもそういう客を把握していて囃し立てるようにスクリーム(悲鳴、叫び)で応える。その基本スタイルは変わっていなかった。しかし『Infinite Granite』の曲になると暴れていた客が立ち止まりしばし休憩。Georgeもスクリームを止め美声を披露する。「Great Mass of Color」という曲にはGeorgeがハミングする箇所があって暴れていた客がポカーンとして固まっていたのが可笑しかった。Deafheavenって今後どんな方向性を辿るのか見ものである。
Deafheaven-Great Mass of Color(Official Audio)
“ロックレジェンド”
2024年はレジェンドクラスのバンドライブもいくつか観たが二つのパターンに分かれていたと思う。一つは現在進行形のバンド、もう一つは懐メロバンド、だ。前記の方はバンドのポリシーとか新曲も大事にする、後記は興業と割り切って言い方は悪いが金儲けの為だけ、というイメージで差し支えないと思う。自分としてどちらが良かったかというと(反感を買うかも知れないが)懐メロバンドの方に軍配を上げたい。ここは自分の好きなミュージシャン、バンド、曲を褒め称えるだけの場所である。なので今回は懐メロバンドだけを取り上げることにする。
Sammy Hagarの来日公演、場所は大阪、堂島リバーフォーラム。今回の来日はSammy個人名義ではあるものの元Van HalenのMichael Anthonyがベースを担当することもありVan Halenの楽曲が中心だった。物凄いパワフルさでとても77歳とは思えないSammyはずっとテキーラを飲みながらも全く酔った素振りもなくひたすら喋りながら上機嫌。今回のライブ、ポイントはVan Halenのアルバム『1984』に収録されている「Jump」「Panama」を演奏したことにあった。「Jump」演奏中の出来事である。最前列にいた客がSammyに『1984』のレコードを差し出した。Sammyはすかさず取り上げて演奏中にも関わらずマジックでサインし、プレイ中のMichaelに持って行ってサインさせて客に返した。『1984』というアルバムはVan Halenの代表作ではあるがSammy加入前の作品でアルバム制作にSammyは1ミリも絡んでいないはずである。自分が評価したいのはSammy陣営が“その方が客が喜ぶだろう”と考えての来日である点だ。ここで名前を出すと悪いので匿名にしておくがロックファンなら誰もが知っているレジェンド級のバンドのライブに行った時のこと。そのバンドには2曲、重要な曲があって一つはバンドの代表曲、もう一つはバンド最大のヒット曲。どんな人でも多分この2曲は期待してたんじゃないかと思う。そして実際は代表曲の方はアンコールで演奏されたが多分長いという理由で短縮バージョン。バンド最大のヒット曲は演奏自体なし。セトリに組み込まれていなかった。演奏された代表曲もバンド側は全く気がない素振りでこちらとしては演奏を聴けただけでも良しとするべきなのだろうか。時々こういう事はあるのだ。2023年にもあった。あるバンドの来日公演で3曲お目当ての曲があったのだが3曲とも演奏無し。自分はショックでしばらく椅子から立ち上がれなかった。セットリストは客が100人居れば100通り必要などと言われるがそれはアーティスト側の気持ちの問題である。今回のライブをどう考えているのか。特に海外アーティストの場合は毎年来日する人達であっても観る側はそれが一期一会になる可能性がある。少し脱線したがSammy HagarはVan Halen在籍時とソロの楽曲だけでもセトリは組めたはずなのだ。実際Van Halen最後の来日公演はDavid Lee Roth在籍時だけの楽曲でセトリが組まれていた。自分は来日するアーティストはSammyぐらい節操が無くていいと思っている。
Sammy Hagar,jump,When It's Love,2024/9/22,Osaka Japan,サミーヘイガー
JOURNEY結成50周年記念ツアー、場所はAsueアリーナ大阪。2024年、海外アーティスト勢でベストライブといえばJOURNEYである。ギターのNeal Schonは唯一のオリジナルメンバーでありキーボードのJonathan Cainは1980年代、バンドが商業的に大成功を収めた時の立役者でこの二人がバンドの中心人物なのだが今現在二人は裁判で争っているのである。バンド名義のクレジットカードをNealがJonathanの承諾なしに勝手に使ったとしてJonathanが裁判に訴えたのだ。確か一旦は和解したものの来日公演の2ヶ月前に再びJonathanがNealを訴えた。自分は来日するメンバーがどうなるのか、はたまたツアーの延期もあり得ると思っていたが何と二人とも来日してライブは行われたのである。裁判で係争中の二人が一つのバンドで同じステージに立つなんて前代未聞だ。案の定、演奏中はJonathanが左、Nealは右で一番遠い位置でプレイしお互い歩み寄ることなくライブ終了時にメンバー全員で肩を組んで観客に挨拶する時も二人が触れ合うことはなかった。しかしライブは最高だった。セットリストもこれ以上ないと思える程、聴きたい曲は全部揃っていた。長年JOURNEYのライブへ行くことにためらいがあったのはボーカルのArnel Pinedaに対してだったが彼はSteve Perryのクローン役をバンドから望まれ自身もそれを承知で加入し17年の歳月が経過している。自分の思いなど杞憂に終わり今や彼こそがバンドをまとめ上げ、引っ張っていると感じた。自分は中学生の頃から聴いていた本物のJORNEYを生で観賞し感動で身震いした。素晴らしいライブだった。