ユレルランドスケープ / 桐原ユリ

40代、50代になってアイドル沼へ嵌まるという現象がある。

例えばフリッパーズギター「恋とマシンガン」が渋谷系世代にとっての青春ソングだとして中年のオジサンになっても音楽の好みは大して変わらないのである。しかし現状を考えてみると当事者の二人、オザケンコーネリアスがLIVEでフリッパーズの曲を演ることは有り得ないので大人しくオリジナルを聴いておくか、他のアーティストのカバーで我慢するしかない。そんなファンの心の隙間を巧みに突いてくるのがアイドルの後ろにいる大人達。当時の雰囲気を彷彿させる曲を女の子に歌わせてオジサン達を萌え上がらせることに成功している。当然自分もこれに当て嵌まるという訳だ。

 

先週、東京は渋谷にてこちら

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ユレルランドスケープのLIVEを観た。

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ユレルランドスケープ『lullaby love』2020年


ユレルランドスケープ - ミッドナイトシティ

カラオケに行った女の子が滅多に歌わない曲を最後まで歌って一言、「キー高すぎるわ!」と言いそうな曲を持ち歌にしている彼女達ってどんな子達なのか。予備知識なしでLIVEに行ってみたらハードに踊って歌うド直球なアイドルグループだった。

LIVEで一番良かった曲がこちら


ユレルランドスケープ 『mellow』 MV

GRAPEVINEの「スロウ」とか「光について」とか、ああいう感じの雰囲気を彼女達なりに極められたら面白いなぁ、と。グループのリーダーだという黒髪ロングの子がMCで「12月4日に横浜で行うワンマンライブ、キャパ300人はハードルが高い」と神妙な口調で語っていた。大阪だったら行くのだが平日の横浜は自分にとってハードルが高い。

 

翌日は地下アイドル界のラスボス、SAWAさんが主催するイベント『サワソニ』。

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自分はSAWAさんのLIVEと玉芸を目当てにしていたのだが当日、出演者の中に気になる子を発見、その子の名は桐原ユリ。

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彼女は出て来ていきなりのブっ飛びキャラでかなり個性的だったが演目の中にジャズを基調にした2曲があった。LIVEの2曲目に歌われた「Lady,Girl,Baby」。例えば楽曲制作者が普段からジャズなど一切聴かないのに営業的にジャズをモチーフとした曲を制作し本来なら編曲はジャズ畑の人を起用すればいいものをそういうこともなしで中途半端なJ-ポップに仕上げて「ズージャっぽい」とかいう(それでいいのか)。しかしこの曲は相当ジャズに精通した作者であることが予測されるオーソドックスなジャジーポップ。ラストで歌われた「虹ガール」はスタンダードソング「オーバーザレインボー」の有名なフレーズがアウトロに出てくる粋な作り。

誤解を生まない為に言っておくがアイドル楽曲の完成度はすこぶる高く、どの曲もびっしり作り込まれてある。アイドルにとって曲が良いことは最低条件、大前提なのだ。そしてこのイベントに出ていた女の子達、ダルそうにしていたり手を抜いているような子は一人もいなかった。みんな全力で歌って踊っている。自分は全然知らない女の子達10組50曲ぐらいは観ていたが曲の完成度と女の子達の意気込みのおかげでいつまででもそこにいられる気がした。

ただし曲については好みの問題があって桐原ユリの2曲は自分が普段聴いてるものに近い感じがして気になった。終演後、思い切って物販ブースにいた御本人に聞いてみると2曲共に矢舟テツロー氏の曲だという。矢舟氏といえば一枚ソロアルバムも持っているし何より去年ビルボードライブ大阪で行われたピチカートワンのLIVEで素晴らしいピアノプレイを聴かせていただいた方だ。

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PIZZICATO ONE『前夜 ピチカート・ワン・イン・パースン』2020年

その矢舟氏が力を入れているシンガーだとは全く知らなかった。来年矢舟氏とのコンビでアルバムが出る予定だそうで楽しみである。小島麻由美の「恋の極楽特急」とか「おしゃべり!おしゃべり!」とか、ああいう感じの雰囲気を彼女なりに極められたら面白いなぁ、と。

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桐原ユリ『Lady,Girl,Baby』2020年


【MV】桐原ユリ「Lady,Girl,Baby」